相続放棄と保険(生命保険)

 

相続放棄を行った場合、生命保険の死亡保険金を受け取れないと考えている方も多いのではないでしょうか。

生命保険の死亡保険金は、相続放棄に限らず受け取ることができます。さらに相続税の基礎控除が適用されるので、税負担を抑えられるのも大きな特徴です。

この記事では、死亡保険金の取り扱われ方や相続放棄と権利、相続放棄によって受け取れる・受け取れないケースについて解説していきます。

生命保険の死亡保険金は相続財産なのか

まずは生命保険の死亡保険金は相続財産なのか、そして非課税枠などについて解説していきます。

死亡保険金の受取人によって相続財産か変わる

生命保険の死亡保険金は相続財産かどうかという点については、受取人によって変わります。

 

保険は契約人と被保険者、保険金受取人の3種類に分かれています。契約人は、生命保険を販売している保険会社と契約し保険料を負担している方を指し、保険をかけられている方を被保険者と呼びます。

 

保険金受取人とは、文字通り死亡保険金を受け取る「受取人」のことです。契約人と被保険者、死亡保険金の受取人が被相続人(相続財産を遺して亡くなった方)ですと相続財産として区分します。

 

たとえば夫が生命保険の契約者で、なおかつ保険料の支払いを行い死亡保険金の受取人と仮定します。この場合、夫の死亡後に妻が死亡保険金を受け取る場合、夫の財産を受け取ることになるため死亡保険金を相続財産として取り扱われます。

 

一方、死亡保険金受取人が被相続人ではない契約状況ですと、被相続人の財産ではありません。そのため相続人は、相続放棄に関係なく死亡保険金を受け取ることができます。

 

相続財産ではない場合はみなし相続財産として区分される

死亡保険金の受取人が被相続人ではない時は、相続財産として区分されません。しかし、被相続人が亡くなったことによって、相続人が財産を受け取る場合、みなし相続財産と呼ばれる区分となります。なお、みなし相続財産は、死亡保険金の他、死亡退職金なども対象です。

 

みなし相続財産に区分された場合は、相続税法では相続財産に含めます。しかし、民法では受取人の財産となるため、相続財産でありません。(民法では一部例外があり、特別受益などみなし相続財産となる場合もある)

 

相続税法でみなし相続財産に該当する場合、相続税の対象となる場合もあります。一般的には、契約者と被相続者が被相続人、死亡保険金受取人が相続人のケースです。このような場合は、相続税の課税対象となりますが相続税の非課税枠も適用されます。

 

また、非課税枠の計算時は、相続放棄している方も法定相続人として含めます。ただし、相続放棄している方は、死亡保険金の受け取り時に非課税されません。

 

死亡保険金の非課税枠は以下の通りです。

  • 法定相続人数×500万円=死亡保険金の非課税枠
  • 例:2人×500万円=非課税枠1,000万円

 

なお、死亡保険金は、生活保障の1つとして考えられているため非課税枠を認めています。

 

相続税の基礎控除は適用される

相続放棄した場合は、死亡保険金にかかる相続税の非課税枠を利用できません。しかし、相続税の基礎控除は適用されるので、死亡保険金にかかる全ての課税額を負担

 

相続税の基礎控除額は、以下の通りです。

  • 法定相続人数×600万円+3,000万円=基礎控除額
  • 例:法定相続人1人×600万円+3,000万円=基礎控除額3,600万円
  • 例:上記の場合、死亡保険金3,600万円以下であれば課税対象額0円

 

基礎控除額以下の課税対象額の場合は、上記のように全額非課税となります。また、相続放棄していない場合は死亡保険金の非課税枠も活用でき、2つの非課税枠によって控除可能でです。

 

死亡保険金の非課税枠や相続税基礎控除を超える課税対象額の場合は、課税額に応じて税率と控除額(基礎控除などを差し引いた課税に適用される控除額)が変わります。

 

課税対象額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

なし

1,000万円を超え3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円を超え5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円を超え1億円以下

30%

700万円

1億円を超え2億円以下

40%

1,700万円

2億円を超え3億円以下

45%

2,700万円

3億円を超え6億円以下

50%

4,200万円

6億円を超える

55%

7,200万円

 

たとえば死亡保険金の非課税枠や相続税の基礎控除額を差し引いた課税対象額が、3,000万円ですと以下の計算で相続税を算出します。

 

  • 3,000万円×10%=300万円
  • 300万円-50万円=相続税250万円

 

上記のケースでは、250万円の相続税を納税する必要があります。

 

死亡保険金による税負担で不安を覚えている方は、この機会に死亡保険金の非課税枠と相続税の基礎控除額について確認してみてください。

 

なぜ相続放棄をしても生命保険金は受け取れるのか?

ここでは、相続放棄を行った場合でも生命保険の死亡保険金を受け取れるのか、その理由や仕組みを解説します。

 

死亡保険金は受取人の財産

生命保険の死亡保険金受取人を被相続人とは別の人物に指定した場合、死亡保険金の請求権が発生します。

 

つまり死亡保険金受取人は、生命保険会社へ死亡保険金をどのような状況でも請求できます。さらに請求権は法律で定められいて、相続に関する手続きとは関係ありません。(保険法42条 第三者のためにする生命保険契約)

 

なお、第三者のためにする生命保険契約は、被相続人とは別の人物に死亡保険金の受取人を指定し場合、死亡保険金受取人へ請求を与える契約です。

 

生命保険の死亡保険金については、受取人の相続放棄とは別に第三者のためにする生命保険契約に基づいて請求できるので、勘違いしないようにしましょう。

 

受取人が指定していない保険でも請求権が発生することもある

相続人は、相続放棄に限らず保険金を受け取ることができます。そして、死亡保険金受取人を指定していない場合でも、契約内容に死亡保険金受取人は相続人となる、といった内容を定めていると相続放棄に関わらず死亡保険金を受け取れます。

 

そして、死亡保険金の請求権を持つ相続人は、一般的に被相続人死亡時点で法定相続人となる方を指します。

 

相続放棄で受け取れる生命保険金、受け取れない生命保険金

続いては、相続放棄で受け取れる生命保険金と、受け取られない生命保険金について解説していきます。

 

1.死亡保険金の受取人が被相続人(亡くなった方)以外の場合

死亡保険金受取人が被相続人以外の場合あれば、相続放棄後でも死亡保険金を受け取ることができます。

 

生命保険の契約者と被保険者が被相続人で、死亡保険金受取人が相続人の場合、死亡保険金を相続財産に該当しません。そのため、死亡保険金と相続放棄に関係性はありません。

 

死亡保険金の受け取りについて分からない時は、生命保険の契約状況を保険会社へ問い合わせしたり契約書類から確認したりするのが大切です。

 

2.死亡保険金の受取人が被相続人(亡くなった方)の場合

生命保険の死亡保険金は、相続放棄をした後に受け取れないケースも存在します。それは、死亡保険金受取人が被相続人のケースです。

 

  • 契約者:被相続人
  • 被保険者:被相続人
  • 死亡保険金受取人:被相続人

 

死亡保険金の受取人も被相続人の場合、保険会社は被相続人へ死亡保険金を支払います。そして被相続人は亡くなっているため死亡保険金も遺産の1つとなり、相続人の相続財産として配分される仕組みです。

 

さらに相続人は相続放棄してしまうと、死亡保険金を含む相続財産を受け取ることはできません。

 

なお、単純承認となってしまうと、死亡保険金受け取り後の相続放棄はできないため気を付けましょう。相続人は、相続を知った日から3ヶ月以内であれば、債務を限定したり相続放棄に伴う遺産の権利関係に関しても放棄したりできます。

 

しかし、単純承認と定められてしまうと、債務を含め全ての相続財産を引き継がなければいけません。

 

その他の保険金の給付について

相続放棄と死亡保険金受取人の関係性や相続税などについて確認できた後は、死亡保険金以外の給付と相続放棄について解説します。

 

被相続人の解約返戻金

被相続人が生命保険を解約し解約返戻金の手続きを進めた後に亡くなってしまった場合、被相続人の死亡後に解約返戻金など支払われます。そして解約返戻金の受け取りは、相続人へ切り替わります。

 

上記のケースですと解約返戻金は、相続財産となり相続放棄してしまうと受け取ることができません。また、解約返戻金を受け取ると単純承認に該当するため、後から相続放棄できない点にも気を付けましょう。

 

自動車保険の保険金

被相続人が交通事故で亡くなった場合、自動車保険の人身傷害保険によって保険金を受け取ります。そして相続人が、人身傷害保険の死亡保険金を受け取ります。

 

人身傷害保険は損害を受けた(交通事故に遭った人)人が、保険金を受けとる保険商品です。

 

そして死亡事故が発生した場合、保険金の受け取りを請求できる権利者は法定相続人と通常契約事項に明記しています。そのため、人身傷害保険の保険金は、相続財産ではないと判断するのが一般的です。

 

しかし、平成22年4月1日に改正された法律では、死亡保険金を相続財産として定めることができる内容のため、必ずしも相続放棄後に受け取れる訳ではありません。

 

死亡保険金の区分については、司法書士法人などへ相談するのが大切です。

 

医療保険の入院給付金

医療保険の入院給付金などについては、受取人を契約者(被相続人)や契約者の家族に設定できます。そのため、相続財産としての取扱いは、状況に応じて変わります。

まずは医療保険の契約内容を確認し、誰が給付金を受け取る権利を持っているのか整理しましょう。

 

生命保険に関するQ&A

最期に、生命保険と相続放棄に関するよくある疑問点をまとめました。

相続税以外の税金がかかる可能性

生命保険の死亡保険金を受け取る際、相続以外の税金がかかる場合もあります。1つは所属税です。

 

たとえば以下のようなケースとでは、死亡保険金に所得税がかかります。

  • 契約者:子供
  • 被保険者:親
  • 死亡保険金受取人:子供

 

所属税の区分は、一時所得もしくは雑所得です。一時所得は、死亡保険金受取人が保険金を一括受け取る場合に該当します。

 

対して雑所得は、年金で受け取る場合に適用されます。

 

【一時所得の計算方法】

  • 総収入金額-収入を得るための支出額-特別控除額=一時所得
  • 一時所得×5=課税額
  • 課税所得×所得税の税率-控除額=所得税

 

【雑所得の計算方法】

  • 総収入金額-必要経費=雑所得
  • 雑所得×所得税の税率-控除額=所得税

 

どちらの課税額が多いか少ないかについては、総収入によって変わります。

 

贈与税がかかる可能性

生命保険の契約状況によっては、死亡保険金にかかる税金が相続税や所得税ではなく、贈与税になる可能性もあります。具体的には、生命保険の契約者と被保険者、死亡保険金受取人いずれも異なる人物で設定していると贈与税がかかります。

 

贈与税は、被相続人が生きている時に相続人へ財産を贈与する際にかかる税金です。そして、生命保険の契約者と被保険者、死亡保険金受取人が異なると、前段の贈与に該当します。

 

贈与税の基礎控除額は110万円と相続税の基礎控除額よりも低いため、状況によって課税額が大きく変わる可能性もあるでしょう。

 

生命保険の契約は、贈与税を含め税区分も理解した上で決めるのが基本です。

 

相続放棄以外で生命保険の非課税枠が活用できないケース

生命保険の非課税枠は、相続放棄以外にも法定相続人以外の受取人、相続欠格者、排除者などが受け取ると利用できません。

 

親族や自身が法定相続人かどうか確認できていない場合は、早期に法定相続人や配分などを整理しておきましょう。法定相続人は、死亡した被相続人の配偶者および血縁関係のある方です。

 

なお、法定相続人の相続財産に関する優先順位は、以下の通りです。

  • 1位:子や代襲相続人(代わりの相続人)
  • 2位:被相続人の直系尊属(両親など)
  • 3位:被相続人の兄弟姉妹や代襲相続人(兄弟姉妹の子供など)

 

 

みなし相続財産の死亡保険金は遺産分割協議の対象外

被相続人が遺言書を遺していない場合、相続人同士で財産の配分などを決めます。一方でみなし相続財産については、遺産分割協議の対象外とされています。

 

主な理由は、みなし相続財産に該当する死亡保険金や死亡退職金などについて、受取人の財産のためです。(被相続人が受取人の場合は別)

 

ただし、死亡保険金の配分率などで揉める可能性ある場合は、遺産分割協議の際に話し合うのも大切です。


公開日:
最終更新日:2021年3月1日

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